いつか救世主がこの世界を救ってくれる、日本人には荒唐無稽な考えに見えるが、キリスト教圏の国にとってはなじみのある考えであり、聖書の基礎知識があればより楽しく読めること間違いなしなのが、この「イリュージョン」である。
遊覧飛行で各地を回っていたリチャードは、ある日、救世主を名乗るドナルド・シモダと出会う。ドナルド・シモダが起こす数多くの奇跡とそれによる苦悩、悩める救世主の結末やいかに。
おそらくイエスキリストを重ねているであろうドナルド・シモダ、彼の悩みと苦悩を綴った物語とみることもできるし、青年リチャードの青春の1ページとみることもできる。もちろんイエスキリストについて1ミリも知らなくても楽しめる本である。
特に、合間に挿入される救世主の本からの引用は、どう生きるかを悩める青少年にとって必見ともいえる。次の一文は、その中で最も心に残ったものである。
責任を回避するいちばん良い方法は、「責任は果たしている」と言うことである。