MENU

書評

書評ー安生 正著「ホワイトバグ」

昨夏の酷暑、今冬の暖冬と異常気象の影響を肌で感じている人は少なくないだろう。そして、この異常気象の怖いところは果たして、今がその入り口に過ぎないのか、はたまた今後は横ばいになるのか予測がつかない所だ。そこに温室効果ガスの排出枠や環境に良い…

書評ー垣根 涼介著「極楽征夷大将軍」

天皇陛下と聞くと、大人しいイメージがあるのは自分だけだろうか。もちろん、国民の象徴ということは百も承知だが、戦前を知らない世代からしたら平和の象徴という印象があると思う。そんな天皇陛下のイメージを180度覆すのが後醍醐天皇だ。何人も側室がいて…

書評ー夕木春央著「十戒」ーJW2世なら興味深く読める本

モーセの十戒と言っても大多数の日本人には馴染みがないかもしれないが、最近話題のJW2世なら話は別だろう。その全てを言えなくても、なんとなくでもそれがモーセに与えれた経緯や概要はわかるかもしれない。 とある浪人生が親族の遺産相続がきっかけで父親…

書評ー近藤史恵著「砂漠の悪魔」ー元祖NTR?

不倫や浮気を昔に比べて死ぬほどたたくわりには、少し前にはセックスレス夫婦の寝とられドラマが話題になったりと倫理観が揺らぎまくっている現代、ひょっとして寝とられ物の先駆者ではと思わせるのが本作品だ。 憧れの女先輩からも告白され、まさに順風満帆…

書評ー五十嵐律人著「法廷遊戯」ー中世然とした日本の司法へ愛をこめて

再審請求が開かずの扉だったり、起訴後の有罪率が95%以上だったりと司法については、門外漢な私にも漏れ伝わってくるぐらい問題だらけの日本の司法制度、そんな日本の司法制度の問題点を指摘しつつもゲームという枠組みでシニカルに繰り広げられるのが本作…

書評ー太田愛著「未明の砦」ー声をあげることは良いことだ

JW2世として育つと原則政治に関して中立の立場を保つということが骨の髄まで染み込んでいるので、一般的な日本人以上に今の自分の状況や理不尽な社会環境に上位者に声をあげるということはしなくなる傾向にある。その結果、一般的な日本人以上に奴隷根性に秀…

書評ー東野圭吾著「ブルータスの心臓」ーブルータスよお前もか

ひと昔前の人に今では、チャットGPTで手抜き論文くらいなら簡単にできるんだぜといったらさぞかし驚かれるだろう。このままの調子でいくとAIが人類の仕事を助けるのではなく、奪う日もそう遠い話ではないかもしれない。 そんなAI全盛期の今読んでも全く古く…

書評ー道尾秀介著「シャドウ」ー狂鬼人間以来の問題提起

狂鬼人間と聞いて、ピンとくる人はかなりの特撮好きだろう。怪奇大作戦という作品の現在は欠番になっているタイトルだ。なぜ欠番になったのかはここでは触れないが、いわゆる刑法39条の心神喪失者の行為は罰しないという憲法への問題提起ともとれる作品であ…

書評ー東野圭吾著「学生街の殺人」ー何者かになりたいあなたへ贈る

初期の作品ほどエネルギーや情熱、爽やかさがあふれているのは音楽・小説どのジャンルにもいえることだろう。そして、この原則は、いまや泣く子も黙る超一流作家の東野圭吾氏の初期の作品であるこちらにもあてはまる。この作品の爽やかさと勢いたるや急性胃…

書評ー江上剛著「野心と軽蔑、電力王・福沢桃介」ー全JW2世が読むべき本

福澤桃介と聞いてピンとくる人はなかなか教養のある人だろう。かの福澤諭吉の娘婿で関西電力・中部電力の礎を築いた男だそうだ。 しかし、礎を築くといっても財がなければ不可能だ。彼がその財を成した方法は、来年度から実質nisaが恒久化され、全国民を投資…

世界の指導者が認知症になってるかもしれない中で読んだ本〜伊藤潤著:修羅の都

ウクライナ情勢が混沌を極めていて、あちこちからロシアの指導者の様子おかしいという話が漏れ伝わっている。疑り深い私は、そういう報道が出る理由を考えてしまうのだが、それぐらい今回のロシアの行動がこれまでの軍事行動と一線を画していることは間違い…

書評ー麒麟がくるのアフターストーリーー三谷幸喜著「清須会議」

大河ドラマが好発進しているが、その後の物語を楽しめるのが「清須会議」である。 信長を討った光秀だったが、その光秀も秀吉に討たれてしまう。果たして織田家はどうなってしまうのか。だれがその後のキャスティングボードを握るのか。その行く末をうらなう…

書評ーザ・物理入門ー志村忠夫著「いやでも物理が面白くなる本」

子供のころに「なんで虹ができるんだろう、なんで電気は流れるんだろう」と漠然と浮かんだ疑問、そんな疑問に答えてくれるのがこの本である。夕日が赤く見えるのはなぜか、体重をゼロにする方法とは、人工衛星が地球を回る仕組みとは、そんな疑問に答えつつ…

書評ーたいへんよくできましたー伊坂幸太郎著「ゴールデンスランバー」

ある日突然首相殺害の犯人に仕立て上げられた一人の男。彼に冤罪を帰せるため張り巡らされた何重もの罠、そして、それに立ち向かう仲間たち。そんな逃亡劇をビートルズの名曲を織り交ぜながら展開するのがこの作品である。 個人的には、今まで何人もの人を傷…

書評ー己の職責を全うするために命を賭した男たちー辻原登著「韃靼の馬」

かつての日本には、自らに課せられた職責を全うするために、自己の利害を顧みない男たちがいた。時には、そのために自分の命を落とすことも。 そんな血のかよった人間ドラマを楽しめるのが対馬藩と朝鮮を舞台に、幕府と対馬、朝鮮との交流を描いたこの「韃靼…

書評ー救世主って何?ーリチャード・バック著、佐宗鈴夫訳「イリュージョン」

いつか救世主がこの世界を救ってくれる、日本人には荒唐無稽な考えに見えるが、キリスト教圏の国にとってはなじみのある考えであり、聖書の基礎知識があればより楽しく読めること間違いなしなのが、この「イリュージョン」である。 遊覧飛行で各地を回ってい…

書評ー絆ー東野圭吾著「流星の絆」

私がこの本を読んだのは。つい今し方だ。そして、今この文章を書いている。この本を読んだ思いを誰かに伝えたいと思ったからだ。また、こんなに素晴らしい本に出会えたことの喜ぶを伝えたいからだ。 洋食屋を営む5人家族に起こる凄惨な事件。それにより3兄妹…

書評ー悪の行方ー宮部みゆき著「ペテロの葬列」

模倣犯以来、宮部みゆき氏の作品に期待を寄せてきたが、その期待は大きく裏切られることになる。もちろんよい意味でだが。 今多コンツェルンという超大企業に務める杉村三郎は、ある日バスジャックに巻き込まれる。そのバスジャックの犯人が出した奇妙な要求…

書評ービジネスマンとテロリストーエリック・アンブラー著「グリーン・サークル事件」

えらく刺激的な表題をつけてしまった。しかし、全てを読み終えた後ならきっと腑に落ちるはずである。これは1人のしがないビジネスマンがひょんなことからあるテロリストと交流を持つことになり、そのテロを阻止する話だと。 時代は1970年代、地中海地方で実…

書評ー涙は人のためならずー宮部みゆき著「孤宿の人」

ある程度の年齢になってくると、作り物の作品で泣くことは滅多に泣くなってくる。それは、ひとえに経験値が増えているために「はじめての体験」、「見たことないような作品」がどんどん減っていることが原因である。そんな純粋な涙をしばらく流していない私…

書評ー金の切れ目が縁の切れ目ースコット・フィッツジェラルド著「グレート・ギャッツビー」

華麗なるギャツビーをはじめ数多く映画化されている不朽の名作、しかし、その私の中ではその高いハードルを越えることはなかった…… 物語の語り手は、戦争帰りのニック・キャラウェイという青年、その彼が巨万の富を持つギャッツビーなる人物に興味を抱くこと…

書評ー悲しみは雪のようにー東野圭吾著「ある閉ざされた雪の山荘で」

この本を読んで、ある違和感にきずいた人は相当なミステリー好きである。もちろん、その違和感に全く気付かなかった私のようなにわかミステリー好きでも十分楽しめたりもする。 事件の設定は、とある山荘に舞台稽古と称してある7名の男女が集められ、そこで…

書評ー1冊で2回楽しめる小説ー雫井脩介著「犯人に告ぐ」

メインキャラよりサブキャラに感情移入してしまう魅力的な人物が出てくる小説は何冊かあり、この小説に出てくる学生時代に惚れた女に何とか振りまいてもらおうとあの手この手を試みた挙句、失敗に終わってしまう植草のようなキャラクターはそんな数少ない一…

書評ー小さなことに忠実である者は大きなことにも忠実であるー貫井徳郎著「乱反射」

法律には反していないが、モラルに反する行為というのは無数にある。例えば、教室の廊下を走ったり、水道の水を出しっぱなしにしたり… それが積もり積もって予期せぬ結果が生じるということを教えてくれるのが、この小説である。バラバラに見える様々な出来…

書評ー動機ー東野圭吾著「悪意」

特別何かをされたわけではないのに、いけ好かないやつは確かに存在する。 では、その人を攻撃する最も効果的な方法は何か。それは、その人の名誉を 傷つけることである。殺しは一瞬だが、貶められた評判はずっと残る。 そんな恐ろしい発想を具現化した小説で…

書評ー二匹目のドジョウはいなかったー井沢元彦著「逆説の世界史①」

井沢元彦氏といえば、かつて逆説の日本史で新たな着眼点を提示し、ベストセラーを記録した人物である。今回は、その世界史編ということで期待を膨らませて読ませていただいたが、逆説の日本史ほどの衝撃はなかった。 もちろん、ピラミッドの建設理由や活版印…

書評ーまいたものを刈り取った男ー雫井脩介著「火の粉」

果たして人間に人間を裁く権利などあるのだろうか。そんな根源的な疑問を投げかける小説である。ある男が殺人事件で捕まったが、その男の自白は強制的に引き出された可能性が高く。裁判官は無罪の判決を下す。ここまではよくある話なのだが、この小説の秀逸…

書評ー偶然を必然に変えた男ー松本清張著「十万分の一の偶然」

カメラマンの仕事の一つは、決定的瞬間を捉えることである。その際に演出はどこまで許されるのだろうか。果たして、世に出る決定的瞬間のシーンに作為はないのだろうか。そんな疑問を提示する作品である。偶然を必然に変えた男に下った報いとあまりにも悲し…