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書評ー己の職責を全うするために命を賭した男たちー辻原登著「韃靼の馬」

 かつての日本には、自らに課せられた職責を全うするために、自己の利害を顧みない男たちがいた。時には、そのために自分の命を落とすことも。

 そんな血のかよった人間ドラマを楽しめるのが対馬藩と朝鮮を舞台に、幕府と対馬、朝鮮との交流を描いたこの「韃靼の馬」である。対馬藩が置かれていた幕府と朝鮮の板挟みという状況、それによる一人の男の奮闘と苦悩、もちろん私のような歴史にほぼ無知な者でも自然に物語が入ってくるのは、著者が巧みであるからにほかならない。嫌味なく歴史の知識を披露し、それを物語に落とし込めているのはまさしくプロの技である。

 読んだ後には、きっと静かな感動とほんの少し賢くなった気持ちになれるこの本をおすすめせずにはいられない。

 歴史好きな人にも、そうでない人にもお勧めできる本である。

  「人間はたったひとりでは生きられない。」

 -出典:辻原登著「韃靼の馬」,日本経済新聞出版社,631