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書評ー1冊で2回楽しめる小説ー雫井脩介著「犯人に告ぐ」

  メインキャラよりサブキャラに感情移入してしまう魅力的な人物が出てくる小説は何冊かあり、この小説に出てくる学生時代に惚れた女に何とか振りまいてもらおうとあの手この手を試みた挙句、失敗に終わってしまう植草のようなキャラクターはそんな数少ない一人だ。

 あらすじは、長年未解決だった連続幼児誘拐殺人事件を解決しようと警視庁がテレビ局も巻き込んだ劇場型捜査を用いるというもの。そこに抜擢されたのは、かつて大失敗をやらかした巻島捜査官。テレビで犯人に呼びかけつつ、捜査を行うも、警視庁内部にも不穏な様子が漂う。果たして犯人の正体やいかにという具合で話は進んでいくわけだが、その捜査と並行して冒頭の恋愛模様も描かれていて、冒頭に出てくる植草は彼の上司に当たる。

 ただ、惚れた女に振り向いてもらいたいがために馬鹿なことをした植草とその女がどうなったかはぜひ、本を手に取って確認してもらいたい。

 植草視点で読むと男の悲哀に共感できるだろうし、巻島視点で読むと最後まで自分の信念を曲げない大切さを学べるまさしく1冊で違う味が楽しめる小説である。

 

 「人を叩き過ぎちゃあ、いかんのです‥‥」

 「叩けば誰でも痛いんですよ‥‥」

  〔引用文献:2004,犯人に告ぐ,株式会社双葉社,雫井脩介著,324〕