MENU

書評ー東野圭吾著「ブルータスの心臓」ーブルータスよお前もか

 ひと昔前の人に今では、チャットGPTで手抜き論文くらいなら簡単にできるんだぜといったらさぞかし驚かれるだろう。このままの調子でいくとAIが人類の仕事を助けるのではなく、奪う日もそう遠い話ではないかもしれない。

 そんなAI全盛期の今読んでも全く古く臭さを感じないのはさすがの手腕だろう。主役はとあるメーカー勤務で人工知能ロボットの開発に取り組む男。会社でも頭角を現し、順調だったはずの彼の運命は、恋人の妊娠をきっかけに一変する。恋人をめぐる社内の恋愛模様、はたして、彼女の子どもは誰の子どもなのか。はたして、主人公がかつて作ったロボットの死亡事故の真相とは。

 人間を信じず、ロボットを妄信していた主人公の最後は皮肉としかいいようがない。サスペンスとしても一級品だし、現実にすでに多くの工場で機械による完全自動化が行われるあるいはそれを目指していることも併せて読むと、より興味深いだろう。そして、きっとこう思うはずだ。機械はいつも正確だが、それを操作する人間に悪意がある限り、不測の事態は防ぐことはできないと。