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書評ー道尾秀介著「シャドウ」ー狂鬼人間以来の問題提起

 狂鬼人間と聞いて、ピンとくる人はかなりの特撮好きだろう。怪奇大作戦という作品の現在は欠番になっているタイトルだ。なぜ欠番になったのかはここでは触れないが、いわゆる刑法39条の心神喪失者の行為は罰しないという憲法への問題提起ともとれる作品であったことは、ウィキペディアなどからあらすじを参照しても想像できるだろう。

ネタバレを含むことになるので、詳細は省くが、このシャドウでは、以下の問題提起がされているように感じた。(あくまでも私の主観)

 ①犯罪を犯し、不起訴になったものの精神障害者のフォロー体制が現状でいいのか

 ②精神障害者詐病の可能性について

 ①については、そもそも犯罪を犯しているのに、精神障害者というだけで、不起訴はおかしいだろうという意見が多いと思われるが、この作品の面白いところは、そこで終わらずにその先にも触れている点だ。つまりは、不起訴になり、その後精神病院へ入院となる精神障害者の退院後のフォローについてだ。当然不起訴なので、住んでいる地域に戻るわけだが、監視もなにもない状況でよいのかという点が触れられている。もちろん、この監視には地域住民のためという意味合いもあるだろうが、本人のためという意味合いも含んでいるのではと思う。

 ②については、上記の狂鬼人間は完全なフィクションだが、これについては、ギリギリリアリティのある線をついていると感じた。なんせ、画像診断や血液検査で明確にわかる身体疾患と違い、精神疾患については、確定的な検査は少なく、本人が特定の症状を装うことは不可能ではないからだ。詐病かどうかを見分けるのも医者の仕事というわけだ。

 上記の要素が物語にどう織り込まれているかは見てのお楽しみだ。はたして、本当の精神障害者はだれなのか、そして、今これを読んでいるあなたは正常なのかそんな疑問が読み進めるうちにわいてくるはずだ。最初と最後で全く違った表情になるこの作品をぜひご覧あれ。