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書評ー涙は人のためならずー宮部みゆき著「孤宿の人」

 ある程度の年齢になってくると、作り物の作品で泣くことは滅多に泣くなってくる。それは、ひとえに経験値が増えているために「はじめての体験」、「見たことないような作品」がどんどん減っていることが原因である。そんな純粋な涙をしばらく流していない私の涙腺を刺激したのがこの作品である。

 時は江戸時代、舞台は丸海藩という架空の藩の話。そこに江戸からいわくつきの大物罪人が流刑のため滞在すること。それをきっかけに様々な怪事件が藩でまきおこる。それらの事件解決にいそしむ宇佐という一人の女の子、周りからは鬼やたたりと恐れられるその大物罪人、その罪人と不思議な縁から心を通わせ、周りからは「阿呆のほう」と呼ばれる少女、様々な人物の視点で物語は進みやがて涙と感動のクライマックスを迎える。感動の傑作なんていうと実にありきたりな言葉だし、よく使われる売り文句だが、この作品に関しては感動という言葉に過言はないといえる。個人的にはこれまで読んだ宮部みゆきの作品の中で最も感動した作品である。