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書評ー太田愛著「未明の砦」ー声をあげることは良いことだ

 JW2世として育つと原則政治に関して中立の立場を保つということが骨の髄まで染み込んでいるので、一般的な日本人以上に今の自分の状況や理不尽な社会環境に上位者に声をあげるということはしなくなる傾向にある。その結果、一般的な日本人以上に奴隷根性に秀でた、経営者側からすると実に都合の良い人材が誕生したりもする。

 そんな風にして組合活動とか政治活動なんてもってのほか、ストライキなんて考えられないというJW2世が読むと衝撃を受けるのがこの未明の砦だ。

 自動車工場のライン作業を行う非正規労働者4名の正当な権利を求めた華麗なる逆襲。時に経営者というのは理不尽で無理難題を押し付けている場合がある。果たしてそれに従うことは本当に正しいのか、労働者には声をあげる権利はないのかが、海外の例などを交えて実に理論的かつドラマティックに描かれている。

 もし、このブログを読んでいる人の中で、今自分は誰かから虐げられていると感じているなら、また逆に誰かを虐げていると感じているなら是非この小説を読んでほしい。どちらの立場の人にとっても今の状況を客観的に見る上で非常に助けになるはずだ。

 そして、これを機に労働組合ストライキを頭ごなしに忌避するのはやめた方が良いだろう。意思表示をしないことが損になる時代はもうすぐそこまで来ているのだから。